「がん患者」はアルツハイマー病リスクが低い
高齢の「がん患者」はアルツハイマー病になるリスクが低いことが、イタリアの研究で明らかになりました。この調査は20万人強を対象とした研究です。一般集団に比べて、がん患者はアルツハイマー病のリスクが35%低く、一方のアルツハイマー病患者はがんリスクが約半分であることがわかったのです。

研究グループは、この知見が双方の疾患の治療を向上させる研究の指針として役立つ可能性があるとコメント。研究リーダーであるイタリア高度生物医学技術研究所のMassimo Musicco氏によると「今回の研究では、とくにがんの増殖と制御において作用することがわかっているいくつかの遺伝子が、アルツハイマー病の発症にも関与している可能性が示された」とのことです。
「Neurology」オンライン版に7月10日に掲載された今回の研究では、60歳以上のイタリア人20万4,000人強の健康状態を2004~2009年の6年間追跡。期間中に約21,500人ががんになり、2,800人強がアルツハイマー病を発症しました。
両方を発症したのは161人でしたが、一般集団の発生率から両方を発症する比率はもっと高いと予測されていたといいます。これらの数値を処理した結果、いずれの疾患にも他方の疾患のリスクを下げる保護効果があることがわかりました。また、一方の疾患による早期死亡によってこの関係を説明することはできません。
アメリカのニューヨーク大学ランゴン医学部のJames Galvin氏は、脳血管性認知症などの認知症リスクは、がんやがん治療によって変化しないと指摘。多くのがんとアルツハイマー病には共通の経路が存在するが、そのほかの認知症にはそのような関係が存在しないことが示唆されると述べています。がんとアルツハイマー病の間に独特の関係があるとすれば、がん治療に用いられる薬剤をアルツハイマー病にも利用できるかどうかについて研究を重ねる必要があると、同氏は付け加えています。
付随論説の著者である米ワシントン大学医学部のCatherine Roe氏は、今回の研究はその規模の大きさから有望であると述べ、最終的にはアルツハイマー病とがんの間に関連がみられる理由を解明するうえでも有用なものとなると考えられると指摘。なお、今回の研究ではがんリスクとアルツハイマー病リスクの関連が認められましたが、因果関係を明らかにするものではありません。